ナノ化粧品、肌にはどうナノ?

そもそもナノって何ナノ?

ナノマテリアルという言葉をどこかで聞いたことがあるかもしれません。頭のナノとは10億分の1を表す単位で、マテリアルは材料や素材を指します。ナノ原料、ナノ材料というわけです。1ナノメートルは10億分の1メートルの長さのことです。言い換えると1千万分の1センチ、さらに言い換えると、百万分の1ミリメートル。どのように言い換えても想像できない小ささです。

従来使用していた材料をナノレベルの大きさにすると、良い特性が加わり、有益な活用面が開ける場合があります。化粧品の材料もその一つで、ナノ化された成分を謳うことでPR効果高まると言うこともあってか、近年、盛んに『ナノ』を謳う製品が増えてきました。

ところが、それに相反するように、余りに小さなものを肌につけると、それらの材料が肌内部に入り込み、さらには血液に運ばれて、様々な臓器や脳にも悪影響があるのでは、といった心配をする人達が出てきました。

日本では2004年から、日本化粧品工業連合会を核に多くの研究員や医学博士達により、ナノマテリアルの安全性の検証と研究が進められ、毎年その成果が報告されています。今では日米欧加4極の国々が参加して、ナノマテリアルの規制と協力を考える化粧品の国際会議(ICCR)がもたれるようになりました。

ICCRのナノマテリアルの定義

不溶性の成分で、意図的に製造され、最終処方で少なくとも一次元が1~100ナノメートルの領域内にあり、かつ当該物質が備えている生体システムとの間で相互作用を可能にする性質が、十分に安定性があり、かつ持続性があるもの。

何とも解りにくい定義ですね。「人体への影響で気になるのは不溶性の成分(酸化チタンや酸化亜鉛などのパウダー成分がその代表)、材料の大きさは1~100ナノメートルを対象に安全性の検証と規制を考えていく」ザッとこのような意味だと理解しましょう。

パウダー成分イメージ

で、その結果はどうなのか?

10年以上を経過していますが、現在のところ人体に悪影響のあるデータはないそうです。日本では酸化チタンや酸化亜鉛が1990年頃より、微粒子成分、超微粒子成分として(当時はナノという表現はなかった)使用されてきた実績がありますから、既に20年以上が経過しています。

だから多分、安全といって良いのではないでしょうか……と、サッポーは考えます。

歯切れが悪いのは、40年、50年経過したら……というデータはまだないため、公にはこのような言い方しかできないのです。(化粧品に使用される材料に限った話)

皆様なら、化粧品材料のナノ化について、その安全性はどのように判断されるでしょうか?

「あり得る心配だから、やっぱり不安!」

「そんな心配より、紫外線の方が心配!」

サッポーの本音は、後者です。

安全性については、これくらいにして、次はナノ化した材料を使った化粧品の良さについて見ていきましょう。

ナノ化した材料の長所

例えば、微粒子酸化チタンは紫外線反射剤として、また白色顔料の一つとして化粧品に利用されますが、粒子の大きさをナノ化した場合、どのような良さが得られるのでしょうか。最近では、5ナノメートルといった小さな酸化チタンも登場しています。

  • より少量で広い範囲をカバー、紫外線防止効果を発揮する
  • 光の反射がより分散され、白っぽさが減衰、白浮きしない
  • 肌理の粗い肌にも見映え良く付き、化粧崩れが軽減する

酸化チタンのナノ化の長所を挙げましたが、酸化亜鉛についても同じ長所が得られます。

また、パウダー顔料のシリカをナノ化すると、皮脂の吸着性が良くなるので、化粧が長持ちするようになります。

これらをわかりやすくまとめると、「肌に対する延びがよく、肌理が粗い未熟な肌にもフィットしやすいので、肌をきれいに見せてくれる。汗や皮脂にも比較的崩れにくく、結果として紫外線防止能力が強化される。また白浮きしない分、肌の透明度を高めた見映えが可能に」こんなところでしょうか。

いかがでしょう。化粧品材料のナノ化、ナノマテリアルの長所はおよそ理解できましたね。

ここで、理解度の応用テストです。下のような微妙な表現をしたナノ化粧品の宣伝がありました。

“しわを減らし、皮膚の表面を安定させる効果がある”

誤解のない表現にするとどうなるでしょうか?
サッポーの模範解答はこうです。

「肌の凹凸に、より万遍なく付いてカバーするので、影が少なくなり、しわを目立たなく見せてくれます。肌への付きが良いので、化粧が崩れにくく安定します。」

しわが実際に改善されるわけではありません。
でも、肌の見映えをきれいに見せてくれるのは、嬉しいですね。

本当に大切なのは?

もう一つ、ナノ化に関連した話題を紹介します。定義されたナノマテリアルからは脱線しますが、不溶性成分でなく、可溶性成分である保湿成分、ヒアルロン酸やコラーゲンなどの巨大な分子の集合体成分を、もう少し小さな分子の集合体にして、化粧水などに利用する方法があります。

慌ただしい朝のイメージ

このような化粧品を使用すると、すっと肌に吸収されたような感覚を覚えます。肌へのなじみが早くなるのです。つまり、スキンケアがもう少し手早く行えるわけです。ただし、肌に対する保湿効果が高まるわけではありません。でも、慌ただしい朝などは、ありがたい効果だと思う人は多いかもしれませんね。

ナノ化とかナノ化粧品という用語は、法律で決められたように世間で定義されているわけではありません。だから私達は、様々な表現で良さを訴えるものに出会います。また逆に、批判的な評価も目にします。しかし、その実態と本質は、今日の講義をベースに判断していただければと考えます。

良さは良さとして正しく認識するが、肌が変化するといった誇大な効用が表現されていたら、眉に唾をつけて、冷静に判断する態度が望まれます。

スキンケアを行う上で、本当に大切なのは、総合的に肌にとって良い環境を作っているか?ということです。

例えば、紫外線対策は完璧に近い環境作りができているが、乾燥防止の側面ではマイナス要素が多い…これではダメなのです。アクセルとブレーキの両方を踏んでいるようなものですからね。

まずは、基本のケアを徹底的に抑えてみましょう。そうすれば、失敗しない知識がいつの間にか備わっています。レパートリーを拡げ、いろいろと試していくのはそれからなのですね。

今日のサッポー美肌塾まとめ

  • ナノ化された製品の真相を知り、誇大広告に惑わされない
  • もっと大切なのは、肌が育つ環境を総合的に考えること
黒板に注目!

「サッポー美肌塾」第619号 / 2016年8月24日 発行


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