俗にパラベンと呼ばれる静菌効果の高い化粧品成分があります。とても効果があり、安全な防腐剤なのですが、どうしたことか、このパラベンを配合した化粧品が、近年において有意に少なくなっています。いったいどうしたことなのでしょう。
調べてみると、「パラベンフリー」とか、「パラベン不使用」などの製品案内が散見されます。販売者には全成分表示が義務づけられているから、それを見ればわかることです。
では、なぜ、わざわざ使用していないことを表記しているのでしょうか?
少し意地悪な視点で見ると、ネガティブキャンペーン的な商法に見えます。パラベンは悪い成分だと信じている人に対しては、○○フリー、○○不使用を宣言すると、よい商品に見え、販売増加に繋がるだろうという商法です。
一方、化粧品販売の立場から善意で解釈するなら、風評による販売の低減を怖れてやむなく配合しない事にした、といったところでしょうか。世間にはパラベンは悪者成分と思い込んでいる人が多いから、使用せずに、さらにそのことを明記しておいた方が無難だというわけです。
しかし、いずれにしても、このような観点で配合成分が決められていたら、はたしてよい製品ができるのでしょうか。毎日肌に使用するものですから、信念を持って、よりよい製品を作って欲しいと願うところです。
なぜ、このような話題をテーマにしたかといいますと、サッポーのスキンケア相談室にちらほらとパラベンについての質問を頂くようになったからです。
今日はパラベンについて解説していきます。
そもそもパラベンとは
パラベン(通称)とは、化粧品の防腐剤(保存料)として使用されているものです。もちろん食品や医薬品にも利用されますが、ここでは化粧品に絞って解説します。
安息香の木(あんそくこうのき)の樹脂にバニラ様の芳香があり、香料として使用されていました。樹脂に含まれる安息香酸に静菌作用のあることが知られるようになり、食品や化粧品の保存にパラベンの名で利用されるようになりました。
といっても、現在では安息香の樹脂からではなく、化学的に合成して作り出します。樹脂から抽出したものだと、不純物が多く、肌に使用するのはリスクが高いからです。
化粧品に利用されるパラベンは主に8種類、パラオキシ安息香酸エステル類(パラベン類)と総称されますが、化粧品の全成分表示では下のように表記されます。※( )内のカタカナは簡略名
- パラオキシ安息香酸イソプロピル(イソプロピルパラベン)
- パラオキシ安息香酸プロピル(プロピルパラベン)
- パラオキシ安息香酸イソブチル(イソブチルパラベン)
- パラオキシ安息香酸ブチル(ブチルパラベン)
- パラオキシ安息香酸エチル(エチルパラベン)
- パラオキシ安息香酸ベンジル(ベンジルパラベン)
- パラオキシ安息香酸メチル(メチルパラベン)
- パラオキシ安息香酸メチルナトリウム(メチルナトリウムパラベン)
抗菌作用としては、殺菌ではなく、静菌に優れ、とても幅広い微生物に対して少ない量で有効に働きます。また、他の酸よりはるかに毒性が低く、皮膚刺激や敏感に反応する肌も少ないとされています。
化粧品への配合量は、それぞれ0.2%以下に制限され、パラベン類合計で1%以内の配合が認められています。パラベン類を適切に組み合わせて配合した方が、より少ない量で多くの菌に対する静菌効果があるからです。
パラベンが食品の保存料として登場したのは、1930年代ですから、もうかれこれ100年近く経ちます。今では、化粧品においても、全世界で最も多く使用されている保存料と言えます。
パラベンは危険か!?
パラベンを初め、防腐剤(保存料)を使わない化粧品は、通常使用では数日も経つと、様々な菌や酸素の影響で、腐敗と酸化が進行して、危険で使えなくなります。何ヶ月、あるいは一年を超えて使用しなければならない化粧品ですから、腐敗や酸化が進行しない防止策は必須なのです。
また、薬機法で、化粧品は適切に管理・補完されていたら、3年間は品質が保証されるべきで、それが不可な場合は、使用期限を表示することが義務づけられています。
では、どうしてパラベンが悪者成分として扱われるようになったのでしょう?これには、日本だけにおける哀しい歴史があります。(パラベンだけではないのですが……)
成分については、1980年の薬事法で、「ごくまれにアレルギー等の肌トラブルを起こす恐れのある成分」として、102種類の成分+香料を配合した場合に、表記するように定められていた……というのが唯一のルールでした。これらは「表示指定成分」と呼ばれ、他の大部分の成分は表示しなくてよかったのです。 これは2001年の薬事法改正で全成分表示が義務化されるまで続くことになります。
1980年頃を境に日本の化粧品業(化学)は大きな発展を遂げ、化粧品に配合される成分も以前とは比較にならないほど多く選択できるようになりました。当然、「アレルギー等の肌トラブルを起こす恐れのある成分」も飛躍的に多くなっていたはずです。保存料もパラベン以外に数多く開発されています。ところが、102種類の成分+香料の表示指定成分はそのままでした。
この時代の「この成分がいい」「あの成分はもっといい」という化粧品成分の開発競争、それ自体は歓迎できることだったのですが、一方でネガティブキャンペーン的な「この成分はよくない」「あの成分はもっとよくない」という販売方法がはびこり始めます。
そこでやり玉に挙げて利用されたのが、そのままにされていた表示指定成分です。パラベンはこの102種類の内の一つでした。保存料は既に数多く新しいものが開発されていたので、表示しなくていい成分をパラベンの代替として使用し、「(危険な)表示指定成分のパラベンは使ってないから安全だよ」と主張した(思わせた)のです。
ネガティブ商法に惑わされないために
余談になりますが、1999年に「買ってはいけない」という本が出版され大ベストセラーになりました。食品、飲料、洗剤、化粧品、薬、雑貨等々、たくさんの商品の実名を挙げて批判した本でした。
しかし、その内容が余りに杜撰で、根拠が不明確なため、これは消費者に対して不安を売るだけの悪影響しかない本だと、あるジャーナリストが多くの学者や化学研究者の協力を得て「『買ってはいけない』は買ってはいけない」という書籍名で、一つひとつ反論を掲載した啓蒙書を同じ1999年に出版しました。そしてこの本もベストセラーになるという、嘘のような本当の話がありました。まさに、ネガティブ商法の典型例といえるでしょう。
化粧品の分野においては、ようやく、2001年、厚生労働省(当時は厚生省)により、薬事法が改正され、全成分を表示することが義務づけられました。それ以来、多かったパラベンについての質問は激減しました。 パラベン以外の保存料も意識されるようになったのかもしれません。
しかし、ネガティブ商法そのものが消え去ったわけではありません。「表示指定成分」とか、「全成分表示」という言葉を知らない人も増えてきているのでしょう。それをいいことに、不安を売る商法が復活しつつあるように感じます。
メデイア・リテラシーの大切さが日本でも声高く指摘されるようになりましたが、知識がないと私達はついつい、提示された不安を信用してしまうものです。そしてその不安材料を遠ざけようとします。
「他にも様々な防腐剤があるのだから、パラベンでなくてもよいのでは?」という意見がありますが、やはり、パラベンは有名で効果があり、長い歴史を持つ保存料です。それだけに今ある保存料の中では、最も研究材料として取り上げられ、長所も短所も洗いざらいあぶり出された成分と言えます。
しかし、それを逆手にとると、化粧品の利用ではあり得ない短所を取り上げ、ネガティブ商法に利用することも可能になるということです。乗せられないように注意したいですね。
- パラベンは最も歴史があり、安全性が確立された防腐剤である
- ネガティブ商法に惑わされないリテラシーを持とう
編集後記
パラベンに関する相談は、時々頂きます。中には、どうしてパラベンなんて……といった抗議のような内容も(^^;)
説明をすれば、皆さん納得されるのですが、それまでは「良くない」イメージが凝り固まっていらっしゃるようです。
サッポーがパラベンの良さを伝え続けないといけないのかもしれません。
「サッポー美肌塾」第633号
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