皆さんは、化粧品の「浸透」という言葉にどのようなイメージをお持ちでしょうか。
化粧品のCMや宣伝においても“浸透は角質層まで”という補足付きで、頻繁に使用されます。
とにかく「浸透」は良いイメージを持って語られます。しっとり、ふっくら、プルプル、もちもち……このような肌を実現してくれる期待感が伴うからでしょう。
今日の講義では「浸透」についてのサッポーの視点を論じたいと思います。「浸透」の本質を知れば、スキンケアや化粧品選びだけでなく、肌に対する視点が変わってきます。
そもそも化粧品を肌に浸透させる必要はあるのか?
肌(角質層)は、別名バリア層とも呼ばれるように、盾となり何も侵入させないのが仕事です。
それ故に日々傷み、劣化する宿命にあります。乾燥や摩擦、汗による水浸しや紫外線による酸化等々……。このような外部刺激を受けるとバリアー能力は低下します。すると肌の環境が悪くなり、ターンオーバー(新陳代謝)が乱れます。
ここで化粧品の登場です。バリアーが傷まないよう、低下しないよう、外部刺激を受ける前に肌を補強します。具体的には、肌になじんで保湿能を高め、乾燥や紫外線等、様々なダメージから守ってくれるのです。
化粧品がなじむのは、10層ある角質層の最表面だけです。角質層奥深く浸透することに価値はありません。角質層を超えた侵入のリスクが高まるだけです。
化粧品は、肌表面になじむだけで十分役割を果たしてくれます。冒頭に記したように“浸透は角質層まで”といった補足がされるのは「もし浸透したとしても角質層までなので安全ですよ」という意味の但し書きなのです。
よく育った肌ほど、化粧品を浸透させない
お風呂やプールに入ったときや汗をかいたとき、水分がコロコロと玉のように弾かれますか?よく育った健康な肌だとそうなります。子どもの頃、皆さんそうでしたね。
よく育った肌は、水をも通しません。厳密に言えば、表面の角質が水を吸うだけで、角質層の奥までは入れず弾かれてしまうのです。こうして水を弾くのが、角質を取り囲み、角質同士を繋いでいる細胞間脂質の存在です。
細胞間脂質がしっかり備わった肌は、角質一つひとつもよく育っています。水分を保持する能力が高く、柔軟でしなやかな角質です。
一方、育ちが悪い肌の細胞間脂質は不充分で、角質を繋ぎ止める能力も低いため、角質が脆く剥がれ易くなります。
角質が剥がれると、肌は急いで早く次の角質を送り出そうとします。まだ成長途上の痩せたみずぼらしい状態で送り出されるのです。
当然、そういう角質は水分を多く保持することができません。化粧品が浸透しやすく、つけてもつけてもなかなか潤った感じがしません。
化粧品の使用感で「肌がぐんぐん吸い込む!」「肌がゴクゴク飲んでいるみたい!」といった表現をされる方がいます。残念ながら、育つ途上にある肌ということです。
このように感じている間は、「自分の肌は育っていない」と自覚し、スキンケアや肌管理を見直す必要があります。喜んでいてはいけませんよ(^^;)
肌が育てば、化粧品の使用感は変わります。化粧品は肌表面でなじむだけで、たくさんつけなくても潤います。時間がたってもしなやかな感触でいられます。
これが、サッポーが理想とする「化粧品が浸透しない肌」(させない肌)です。
肌や肌の構造物は、肌にしか作ることができない
世間には、浸透の良いイメージを利用した化粧品(成分)があります。
- 例えば、コラーゲン・ヒアルロン酸などの保湿成分
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真皮層にはコラーゲン構造物があり、ヒアルロン酸が充満しています。これらと同じ名前の成分を配合し、肌につけたら浸透して、あたかも補充されるように思えます。
“浸透は角質層まで”なのですから、真皮層に化粧品成分を届けることはできません。もし間違って侵入しても、コラーゲンやヒアルロン酸として働くことはありません。
真皮層のコラーゲンやヒアルロン酸は肌自身が作り出すものだからです。これは一昔前の事例なので、今も信じている方は少ないと思いますが……。
- 最近なら、セラミドやEGF・ヒト幹細胞培養液など
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セラミドは細胞間脂質を構成する脂質の一つですが、肌につけても同じような働きをするわけではありません。
コラーゲンやヒアルロン酸同様、細胞間脂質のセラミドも、肌にしか作り出せないのです。化粧品に利用されるセラミドは、油脂成分です。
EGFは上皮細胞増殖因子として、発見者がノーベル賞を受賞したことで有名です。人体で生産されるタンパク質の一種で、破損したり劣化した皮膚の再生に利用できないかと、半世紀以上の研究がされています。でもまた実用化には至っていません。
化粧品にも2005年から利用されていますが、表示名は「ヒトオリゴペプチド-1」といって、保湿成分です。つけても、肌を再生したりはしません。
ヒト幹細胞の存在は、IPS細胞で有名になりました。身体全ての臓器や器官を作る元となる細胞です。
そして、この細胞を増やす際の“培養液”が化粧品成分に利用されるようになりました……が、ヒト幹細胞そのものを利用しているわけではなく、肌再生とは関係ありません。
EGFやヒト幹細胞などは、今後医療の分野で期待したいものです。研究が進み、化粧品に有効利用されるとしても、ずっと先の未来のことでしょう。
私達は良さそうな成分を見たり聞いたりすると、それに期待し、化粧品選びにも迷いが生まれます。
でも、肌は肌にしか作れません。肌を支える様々なタンパク質や脂質なども、肌にしか作れません。このことをいつも念頭においておけば、化粧品の謳い文句に過度な期待を寄せたり、惑ったりすることはなくなります。
化粧品は肌が育つ環境を作るツール、バリアーを補強し、見映えと感触を良くするのが目的です。それ以上のものではありません。
- 良く育った肌ほど、化粧品が浸透しにくく、美しい
- 浸透イメージを利用した化粧品や成分に惑わされない
編集後記
浸透と聞くと良いイメージが浮かぶのに、本当によく育った肌は化粧品を浸透させない……というのは驚きでしたね! 私達が目指すべきは、浸透しにくい肌です。
そして色々な化粧品成分が出てきますが、大事なことは、その成分ではなく、肌が育つ環境をいかに作れるか、なのですね。今回は基本の基本のお話でした。
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