今回のテーマは“アルコール”です。
「アルコールにアレルギーがあるから、アルコールフリーの製品を使っています」
アルコールについて、このような見解に出会ったことはありませんか?
もちろん実際にアレルギーという診断を受けた人もいますが、一方で自分はアレルギーだと思い込んでいる人も結構いるのです。本人にすれば、体験に基づいた事実ですから、そう考えても無理はありません。
今回はこういった思い込みに焦点を当てて講義を進めていきます。
実は、これはとても残念なことです。
アルコールを配合していても素晴らしい化粧品はいくらでもあるのに、それらの全てを拒絶していることになります。
これでは、化粧品の選択範囲を狭めただけ、という悲しい結果になってしまいます。アルコールで起こりうる弊害を避けられたことは良かったのですが……。
読者の皆様には、本当のところを知り、是非プラス思考のスキンケアを実行して頂きたいと思います。
化粧品に使用されているアルコールとは、どんなもの?
化粧品に利用されるアルコールは、「エタノール」の名称で表示されているものです。あるいは、微量の混ぜものを添加することで、「変性アルコール」と表示されるものもあります。
この二つの表示以外のアルコール類は、ここでいうアルコールとは全く異なった性質を持つものであり、ここで取りあげるようなマイナス面はありません。
エタノールとは、お酒や焼酎、ウィスキーなどのアルコールのことです。
酒類のアルコールの場合、少量の飲用なら害はありませんが、量を多く摂取すると、酩酊ないしは泥酔状態となり、悲惨な健康被害や死をももたらすものでもあります。
そして、このエタノールは、注射の消毒に利用されるアルコールと同じものでもあります。
このように見ると、その使用量(飲酒量)やアルコール濃度によって、与える影響に違いがあるものだと想像できます。
ちなみに、ビールのアルコール濃度は5%くらいです。清酒やワインが15%程度、焼酎でよく出回っているのが25%。ウイスキーやブランデーのように40%くらいのものから、ジンやウォッカのように50%、60%の高濃度といったものまで様々です。
そして、消毒用のアルコール濃度は70%くらいです。
一方、化粧品でアルコールが多用されるものといえば化粧水ですが、どの程度の濃度なのでしょうか。
アルコールフリー製品のように、0%のものを除外すると、一般的には、しっとり系化粧水でアルコール濃度10%程度が標準です。さっぱり系の化粧水では15%程度が標準的なパターンです。また、水に次に配合量の多い成分であることが普通です。
拭き取り用化粧水やニキビ肌用化粧水、あるいは日焼け後の火照りを鎮める収斂化粧水(カーマインローション)のように、焼酎やウイスキー並みのアルコール濃度(20~40%)のものもあります。
化粧品に使用されるアルコール、だいたいイメージして頂けましたね。
化粧品にアルコールを使用する目的
アルコールの肌に対する直接的な効用をいうならば、清浄、殺菌、収斂、乾燥促進……といったことがあげられるのですが、これらの効用を裏返すと、欠点にも繋がります。
アルコール濃度を30%以上に高めると、肌の汚れ、化粧汚れ、油脂分などを取り除くのに優れた働きが備わります。拭き取り用化粧水などはそのものズバリの目的です。
これ位の濃度になると、毎日使用することにより、皮脂や角質同士を繋ぐセラミド等の細胞間脂質を、少しずつ余分に取り除く傾向が出てまいります。そうなるとターンオーバーが早まるので、肌の健康が損なわれます。
同じことが、毛穴や火照りなどの収斂効果を狙った化粧水にもいえます。さっぱりとした清涼感があり、オイリーな肌には気持ちいいのですが……。
また、殺菌効果を期待してニキビ用化粧水に使用される場合、アルコール濃度が20%~になっているものが多いと思われます。確かに殺菌効果は高まり、炎症の発生が減少しますが、一方で上に挙げた欠点がやはり出てきやすくなります。
そして、致命的なことに、アルコールの持つ刺激が敏感さのある肌には、過剰な反応を起こさせるのです。
例えば、炎症部分にアルコールの刺激が反応し、赤みを作ることがあります。あるいは、炎症がなくても、バリアー層が弱体化しているので、アルコールの刺激を過敏に感じ、赤みを作る現象として現れます。酷い場合は、ピリピリした反応や痒み、いきなり湿疹が現れることがります。
かなり敏感さが高じている場合は、このような化粧水以外の化粧水でも反応することがあります。
肌の見守り番「マスト細胞」が刺激をキャッチし、これはいけない!と暴走している姿です。
そういうことならば、やっぱりアルコールは使用しない方がいいのでは?と思ってしまいます。確かにそういった一面があるのですが、アルコールには他に代えがたい、とても優れた働きがあります。
それは、製品における溶剤としての役割です。様々な成分が調合されて、一つ一つの成分が本来の役割を果たすように、その働きをみごとに引き出す点で、アルコールに敵うものはありません。
ところがこのような大切さは、話題になりません。「○○が配合されている。■■の働きが素晴らしい」などの単体成分の持つ長所ばかりが喧伝されます。
でも、本来は、一つ一つの成分がみごとに調合され、完成した製品トータルの良し悪しが問われるべきなのです。つまり、アルコールも製品としての完成度を高めるための大切な要素なのです。
アルコール濃度に着目!
もう、お気づきですね。
肌が反応しやすくなるのは、アルコール濃度が高い場合です。
肌につけるアルコールの濃度と量です。化粧品の場合、肌につける量はわずかですから、問題は濃度だけです。濃度が高いと、刺激が発生しやすく、ある一定濃度以下なら、ほとんどの肌は反応する刺激とはならないのです。
また油脂を溶かす能力や、セラミド等の細胞間脂質を溶かす働きも低濃度では発揮されません。肌のターンオーバーの邪魔をすることもないわけです。
このように事実がわかると、アルコールの配合された化粧品を全て拒否する必要はないことが理解できますね。もっと広い範囲で、優れたスキンケア製品を捜すことが可能になります。この方が楽しいですね。
それではどの程度のアルコール濃度なら、心配することなく、使えるのでしょう。
安心の標準としては、10%濃度程度の化粧水が主流になっていますが、やはりこの辺りでしょうね。市販品でしっとり系のものがだいたいこの範囲に入ると見られます。
一方、さっぱり系、オイリー肌用などは、15%程度のものが多いように見受けます。前段で案内したような、もっと高濃度の特殊なものでなくても、濃度が15%程度になると、肌が過剰反応するケースがグンと増えます。
「では、普通の化粧水に過剰反応してしまった場合、どうしたらいいの?使うのは中止する?やはりアルコールフリーにすべき?」
その通りです。反応することが判れば、直ちに使用を中止するのが基本です。しかし、「アルコールフリーのものを使用する。」……これは選択肢の一つとしましょう。
アルコール濃度の低いものに切り替えたら、何の支障もなく使える場合が多くあります。
でも、成分表を見ただけでは、アルコール濃度までは分かりません。そのメーカーに問い合わせるしかありません。
ちなみにサッポーのしっとり系の化粧水『スキンローション』は、アルコール濃度を標準的な仕様と同じ10%にしております。そして、もう一つのさっぱり系の化粧水『スキンコントロールローション』は、標準的な15%にはせず、かなり控えめの1%未満にしています。
このことが、敏感肌の方にも好まれている理由です。
アルコールは他の成分に比べると、肌に刺激を与えやすい傾向があるのは確かです。でも、ターンオーバーが正常化し、バリアー層がしっかりすると、アルコールそのものに反応することそのものがなくなります。このようにアルコールへの理解が深まれば、スキンケアの自由度が高くなりますね。
- アレルギーではなく、製品や肌に問題がある場合も
- アルコールを理解して、スキンケア製品を楽しく選ぼう
「サッポー美肌塾」第323号
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